「おい…マジかよ…」 バスケの自主練習を終えた和馬は体育館からの渡り廊下で立ち止まった。 渡り廊下に吹き込むほど雨は強く降っている。 「くっそ〜やっぱ傘持ってくるべきだったか…」 和馬は渡り廊下を駆け抜けた。 しばらく立ち止まっていたため少し濡れている。 髪についた水滴を払い、げた箱へと向かった。 げた箱で靴を履き替え外を見て悩む。 が、答えは決まっていた。 「強行突破…しかねぇか…」 鞄を頭の上に乗せ、走りだそうとしたその時。 後ろから声をかけられた。 「あれ?和馬…?」 振り返ると同じクラスの野良由麻が立っていた。 彼女は靴を履き替え和馬の横へやってきた。 「もしかして…傘忘れた?」 頭の上に鞄を乗せた状態で止まっていた和馬を見て由麻は聞いた。 「う、うるせー…」 「良かったら入ってく?」 「え?」 「少し狭くなるけど…びしょ濡れになるよりマシでしょ」 「あ…まぁ…」 「じゃ、行こっか」 「あ…でも…いいのか?」 「困ったときはお互い様だよ」 「わ、悪ぃな…」 「気にしない気にしない」 由麻は傘を差すと和馬の横に立った。 しかし和馬はなかなか傘に入ろうとしない。 そんな和馬を見て由麻は彼の腕を引っ張り傘の中へ入れた。 「うおっ!」 「早く!雨強くなったらどーすんの」 そのまま歩き出す由麻。 自分の腕を和馬に絡ませる形となった。 「ちょ…おいっ!」 「何!」 「腕…離してくれ…」 「腕?」 和馬に言われ、自分の腕が絡まっている事に気付く。 そしてパッと腕を離した。 「ご…ごめん…」 「別にいいけどよ…」 ふと和馬が由麻に目を向けると傘を和馬の身長に合わせるため持ちにくそうにしている。 和馬は由麻の手から傘の柄を取った。 「あ!?」 「持ちにくいだろ」 「…ありがと」 「と、ところでさ…お前は何で残ってたんだ?」 「え?」 「ほら…今日午前中で終わりだっただろ」 「あ…うん…えーと…」 「?」 「あれ!委員会の仕事、あったからさ。でもそのおかげで和馬助かったでしょ?」 「あぁ…まぁ」 「だから細かいことは気にしないの」 「もしかして…待ってた…のか?」 そう和馬が言った途端由麻の頬は紅潮した。 少し和馬から距離を取ってしまう。 しかし離れようとすると和馬が腕を掴み引き寄せた。 「おい、そっち行ったら濡れるぞ!」 「うぁ!」 「ったく…。ほら、もっとこっち寄れ」 「う…うん」 「ま、んなわけねぇーよな」 先程の話はまだ続いていたらしい。 傘を由麻に傾けながらそう言った。 やがて由麻は顔を上げ、口を開いた。 「…だって和馬、傘持ってなかったでしょ?それに…あんなに練習に集中してたんだもん…」 「ま…マジ…?」 「もう!この話はいいでしょ!」 「あ、あぁ…でもサンキューな」 「う、うん…」 それきり会話が途切れてしまった。 二人の間に静寂が流れる。 ただ雨と二人の靴の音が静寂をかき消していた。 雨はやむ気配をみせない。 それを思った由麻は和馬に提案した。 「雨…やみそうにないね…」 「そだな」 「和馬の家まで行くよ」 「それじゃお前遠くなるだろ」 「平気だよ。それに和馬の家もうすぐでしょ」 「だからここまでで大丈夫だ。始めからそのつもりだったしな。じゃサンキューな!」 そう言って傘の柄を由麻に差し出し、由麻がそれを受け取ると和馬は駆け出した。 「あ、ちょっと」 「気ぃつけて帰れよ」 振り返りながら言って、先の角へ消えていった。 「…もう…。ダメじゃん!自分…」 和馬の消えた角を見つめ、ため息をついた。 やがて由麻は向きを変え家への帰り道を足早に歩いた。 次の日。 昨日の雨はあれから一日中降り続いた。 が、次の日にはもう晴れ、空には雲一つ出ていなかった。 由麻の心とは全くもって正反対の天気となった。 「何だかなぁ…」 そう言いながらため息をついた。 学校への道のりをとぼとぼと歩く。 しばらくそんな感じで歩いていると、後ろからやってきた人物に背中を叩かれた。 「いよ!」 「う、うあっ!?」 あまりの派手なリアクションに和馬は驚いた。 そしてすまそうな顔をする。 「わ、悪い…そんなに驚くとは思わなくてよ…」 その顔を見て… 何故か由麻の心は晴れた。 先程までの表情は打って変わって、笑顔になる。 「どうした?」 「別に!何でもない」 そう言って和馬の背中を叩き返す。 バシッと良い音が鳴った。 「イッテー!」 「あはは。お返しだよ」 「つーか、俺そんなに強く叩いてねーぞ!」 「細かいこと気にしない。早く行かないと遅刻するよ!」 「あ、おい!」 由麻は駆け出した。 それについて和馬も走り出す。 二人は並んで学校までの道を走った。 やっぱり今日の天気は晴れであった。 終